着物を美しく着こなすためには、小物の使い方も重要な要素となります。特に扇子は、単なる涼をとる道具ではなく、日本の伝統的な礼儀作法において欠かせないアイテムです。結婚式で留袖を着る際の末広の差し方、訪問着での扇子の必要性、男性と女性での違い、七五三での作法など、場面に応じた正しい使い方を知ることで、着物姿がより一層引き立ちます。
本記事では、着物扇子差し方の基本から応用まで、初めての方にも分かりやすく解説します。着物扇子をさす場所、帯に扇子をさす意味、袴での扇子差し方など、具体的な方法を詳しくご紹介。着物の扇子はどこに差し込むのが正しいのか、着物の扇子を使うときのマナーは何か、といった疑問にもお答えします。正しい知識を身につけて、自信を持って着物を楽しみましょう。
- 扇子は体の左側、帯と帯揚げの間に差すのが基本
- 留袖には金銀の末広を使用し、扇いではいけない
- 男性は着物と角帯の間に差し、女性とは異なる
- 場面や着物の種類によって扇子の使い方が変わる
着物の扇子の差し方の基本と正しい作法

着物を着用する際の扇子は、暑さをしのぐための道具としてだけでなく、日本の伝統的な礼儀作法における重要なアイテムとして位置づけられています。正しい扇子の差し方を身につけることで、着物姿がより美しく、品格のあるものになります。
- 着物扇子さす場所と基本的な位置
- 着物に扇子をさすときはどうすればいいですか?
- 着物の扇子はどこに差し込むのが正しいですか?
- 扇子はどこにさすのが正しいですか?
- 帯に扇子をさす意味と礼儀作法
- 男性の着物扇子差し方のポイント
着物扇子さす場所と基本的な位置
着物に扇子を差す際の基本的な位置は、体の左側です。これは日本の伝統的な作法において、刀を差すのと同じ考え方に基づいています。扇子を差す場所は、帯と帯揚げの間、もしくは帯と帯板の間となります。
具体的には、扇子の要(かなめ)と呼ばれる骨が束ねられている部分を下にして、地紙(じがみ)と呼ばれる紙の部分が正面に見えるように差し込みます。このとき、扇子の先端部分が帯の上線から約2〜3センチメートル程度出るように調整することが重要です。
扇子を差す角度については、体の中心から脇に向かってやや斜めになるようにします。真下に向けて差すのではなく、着物の衿の角度と同じような傾きを意識すると、自然で美しい仕上がりになります。
着物に扇子をさすときはどうすればいいですか?
着物に扇子を差す際の手順を詳しく説明します。まず右手で扇子の要を持ち、左手の親指で帯の差し込む部分を少し開けます。このように帯を開けることで、帯を傷めることなくスムーズに扇子を差し込むことができます。
次に、扇子を一度に差し込むのではなく、2回から3回に分けて徐々に差し込んでいきます。急いで差し込もうとすると、帯や扇子を傷めてしまう可能性があるため、ゆっくりと丁寧に行うことが大切です。
扇子を差し込む深さは、扇子の上端が帯から指2本分程度(約2〜3センチメートル)出る位置が適切です。深く差し込みすぎると扇子が取り出しにくくなり、浅すぎると落ちやすくなってしまいます。
着物の扇子はどこに差し込むのが正しいですか?
正確な差し込み位置は、帯と帯揚げの間です。着物と帯揚げの間に差し込むのは誤りで、これは「間を割る」と呼ばれ、マナー違反とされています。歴史的に見ると、女性が護身用の懐剣の代わりとして扇子を使用していた経緯があり、その名残として帯と帯揚げの間に差すことが正しいとされています。
ただし、振袖などで帯揚げが帯の上に大きく乗る形の場合は、例外的に帯揚げと着物の間に扇子を差すこともあります。これは帯揚げの形を崩さないための配慮であり、茶道の先生方も推奨する方法です。
扇子を差し込む際は、必ず体の左側に差します。これは右利きの人が多いことを前提とした作法で、右手で扇子を取り出しやすいようにするためです。左利きの方でも、伝統的な作法に従って左側に差すことが推奨されます。
扇子はどこにさすのが正しいですか?
扇子を差す正しい位置について、より詳細に解説します。基本的な位置は体の左側で、帯の前板に沿わせるように差し込みます。このとき、扇子の天(上側)が約2センチメートル程度帯から覗くようにします。
角度については、体の中心から脇に向かってやや斜めにすることがポイントです。これは刀を差すイメージと同じで、右手で抜きやすいように左側に差すという考え方に基づいています。真っ直ぐ垂直に差すのではなく、自然な傾きを持たせることで、見た目も美しく、実用的にも使いやすくなります。
また、扇子の向きも重要です。地紙(紙の部分)が正面に来るようにし、骨の部分は後ろ側になるように差します。これにより、扇子を取り出す際もスムーズに行うことができ、見た目にも品格のある印象を与えることができます。
帯に扇子をさす意味と礼儀作法
帯に扇子を差すことには、単なる装飾以上の深い意味があります。日本の伝統文化において、扇子は相手との間に結界を作り、敬意を表すための儀礼的な道具として使用されてきました。特に茶道や日本舞踊などの伝統芸能では、扇子を用いた挨拶が重要な作法として受け継がれています。
扇子を帯に差すという行為自体が、身だしなみを整え、相手に対する敬意を示す意味を持っています。もともと女性の場合は護身用の懐剣の代わりとして、男性の場合は刀の代わりとして扇子を身に着けていた歴史があり、これが現代の作法につながっています。
また、扇子は「末広がり」の形をしていることから、縁起の良いものとされています。先に向かって広がる形は、繁栄や発展を象徴し、特に結婚式などのおめでたい席では欠かせない小物となっています。
男性の着物扇子差し方のポイント
男性が着物を着る際の扇子の差し方には、女性とは異なるポイントがあります。基本的な位置は女性と同じく体の左側ですが、差し込む場所は着物と角帯の間となります。女性のように帯揚げがないため、直接帯と着物の間に差し込むことになります。
男性用の扇子は、女性用のものと比べてやや大きめのサイズが一般的です。また、デザインも落ち着いたものが多く、白扇や渋い色合いのものが好まれます。差し込む際は、地紙が見えるように差すことがポイントで、これは女性の場合と同様です。
男性の場合も、扇子の上端が帯から2〜3センチメートル程度出るように調整します。角度は女性よりもやや垂直に近い角度で差すことが多いですが、着物の着こなし全体のバランスを見ながら調整することが大切です。
着物の扇子の差し方の場面別マナー解説

着物を着る場面によって、扇子の種類や使い方は大きく異なります。結婚式での留袖、お茶会での訪問着、七五三での晴れ着など、それぞれの場面に応じた適切な扇子の選び方と差し方を理解することで、より格式高い着物姿を演出することができます。
- 留袖扇子の差し方と末広の使い方
- 訪問着扇子必要性と正しい扱い方
- 訪問着末広差し方の実践方法
- 袴扇子差し方女性の場合の注意点
- 着物扇子差し方七五三での作法
- 着物の扇子を使うときのマナーは?
留袖扇子の差し方と末広の使い方
黒留袖や色留袖を着用する際には、「末広(すえひろ)」と呼ばれる特別な扇子を使用します。末広は祝儀扇(しゅうぎせん)とも呼ばれ、一般的な扇子よりもやや小さめのサイズで、黒い漆塗りの骨に金銀の地紙が貼られた豪華な作りとなっています。
末広を差す際の基本的な位置は、左胸側の帯と帯揚げの間です。要の部分から差し込み、扇子の上端が帯から2〜3センチメートル出るように調整します。金色の面を相手方に見えるようにすることが一般的ですが、地域や流派によって異なる場合もあります。
立礼での挨拶の際には、末広を手に持って使用します。右手で末広の要(根本)を持ち、左手で末広を受けるように添えます。高さはおへその少し下くらいが適切で、相手には銀の面が向くようにします。
末広を使用する際の手順
手順 | 内容 |
---|---|
差し込み時 | 要から差し込み、金面を前に向ける |
立礼時 | 右手で要を持ち、左手で受ける |
座礼時 | 膝前20cmに置いて礼をする |
保管時 | 帯の左側に斜めに差しておく |
訪問着扇子必要性と正しい扱い方
訪問着は準礼装にあたる着物であり、末広の使用は必須ではありません。しかし、格式を重んじる場面や、周囲の方々が扇子を身に着けている場合は、合わせて使用することが望ましいとされています。
訪問着に合わせる扇子は、黒留袖用の金銀の末広でも問題ありませんが、よりカジュアルな扇子を選ぶこともできます。例えば、骨部分が赤色のものや、扇面に鮮やかな桜色などを用いたものも適しています。帯の色と同系色の扇子を選ぶと、統一感のあるコーディネートになります。
入学式や卒業式などのセミフォーマルな場面では、末広の有無はどちらでも構いません。ただし、扇子を使用する場合は、本来の用途どおり扇子を広げないことが重要です。あくまでも儀礼的な小物として、品格を保って使用することが求められます。
訪問着末広差し方の実践方法
訪問着に末広を差す際の実践的な方法について詳しく解説します。基本的な差し方は留袖の場合と同じですが、訪問着の場合はより自由度が高く、個人の好みやコーディネートに合わせて調整することができます。
まず、扇子を取り出す際は、右手を末広に添え、さらに左手を添えます。3回に分けてゆっくりと引き出すことで、帯を傷めずに優雅に取り出すことができます。「1・2・3」とゆっくり数える気持ちで行うと良いでしょう。
扇子を差し込む際は、前板に沿わせるように左側にやや斜めに差し込みます。訪問着の場合、帯揚げの見せ方も重要な要素となるため、帯揚げを崩さないよう注意しながら差し込むことが大切です。
袴扇子差し方女性の場合の注意点
女性が袴を着用する際の扇子の差し方には、特別な配慮が必要です。卒業式などで着用する女袴の場合、通常の着物とは異なり、袴の紐が帯の上に来るため、扇子を差す位置も変わってきます。
袴姿での扇子は、袴の紐と帯の間、もしくは着物と袴の間に差すことになります。このとき、扇子が安定するように、しっかりと差し込むことが重要です。袴は動きが大きくなりやすいため、扇子が落ちないよう、やや深めに差し込むことをおすすめします。
また、袴に合わせる扇子は、華やかなものよりも落ち着いたデザインのものが好まれます。卒業式などの厳粛な場面では、品格を保ちながら若々しさも表現できるような、バランスの取れた扇子を選ぶことが大切です。
着物扇子差し方七五三での作法
七五三は子どもの成長を祝う大切な行事であり、この際の扇子の使い方にも特別な配慮が必要です。子ども用の扇子は大人用よりも小さめのサイズで、持ちやすく、扱いやすいものを選ぶことが重要です。
3歳の被布を着る場合は、扇子は持たないことが一般的です。5歳の男の子の場合は、袴姿に合わせて小さめの扇子を帯に差すことがあります。7歳の女の子の場合は、大人と同じように帯と帯揚げの間に差しますが、子どもが扱いやすいよう、軽めの扇子を選ぶことが大切です。
親御さんが子どもに扇子の扱い方を教える際は、まず扇子を大切に扱うことの意味を伝えることから始めます。扇子は単なる飾りではなく、日本の伝統文化を学ぶ大切な機会となります。
着物の扇子を使うときのマナーは?
着物で扇子を使用する際の基本的なマナーについて解説します。最も重要なのは、礼装用の扇子(末広)を扇いではいけないということです。末広は儀礼的な意味を持つ小物であり、暑いからといって扇ぐことは重大なマナー違反となります。
扇子を手に持つ際は、常に丁寧に扱うことを心がけます。扇子を振り回したり、人を指したりすることは避け、静かに優雅に扱うことが求められます。また、扇子を下に置く場合は、踏んだりつまずいたりしないよう、バッグの中に入れるなどの配慮が必要です。
挨拶の際に扇子を使用する場合は、相手との間に結界を作る意味があることを理解し、敬意を持って使用します。座礼の場合は膝前約20センチメートルの位置に扇子を置き、立礼の場合は正しい持ち方で相手に礼を尽くします。
着物の扇子の差し方まとめと要点整理

着物扇子差し方について、本記事で解説した重要なポイントを整理します。正しい扇子の使い方を身につけることで、着物姿がより美しく、品格のあるものになります。
- 扇子は必ず体の左側に差し、要を下にして差し込む
- 差し込む位置は帯と帯揚げの間が基本
- 扇子の上端は帯から2〜3センチメートル出す
- 地紙(紙面)が正面に見えるように差す
- 男性は着物と角帯の間に差し込む
- 留袖には金銀の末広を使用し、金面を前に向ける
- 訪問着では末広の使用は任意だが、格式を重んじる場合は使用する
- 末広は絶対に扇いではいけない
- 立礼時は右手で要を持ち、左手で受けるように持つ
- 七五三では子どもの年齢に応じて扇子の有無を決める
- 袴の場合は袴紐と帯の間に差す
- 扇子を取り出す際は3回に分けてゆっくりと行う
- 座礼時は膝前20センチメートルの位置に扇子を置く
- 扇子は相手への敬意を示す儀礼的な道具である
- 地域や流派によって細かい作法が異なる場合がある